お題目は母乳の如し
問う、その義を知らざる人、ただ南無妙法蓮華経と唱えて解義の功徳を具するやいなや。
答う、小児乳を含むに、その味を知らざれども自然に身を益す。
耆婆が妙薬、誰か弁てこれを服せん。
水、心なけれども火を消し、火、物を焼く、あに覚あらんや。
現代語訳
お尋ねするが、その道理を知らない無智な者がただ南無妙法蓮華経と唱えるだけで、理解した者と同じような功徳が得られるのかどうか。お答えしよう。赤子が母の乳を飲む時に、いちいち味がわからなくても、自然に発育していくようなものだ。またインドの名医である耆婆が調合してくれた妙薬は、薬のことをまったく知らなくとも、信じてこれを飲めば重病も快復できるのと同様である。また、水には心はないが火を消し、火はまた心がないが物を焼く力があるのと同じである。
「南無妙法蓮華経」。この七文字に、ご本仏釈尊の大慈悲とお徳の一切が詰まっているのです。
仏様の智慧の中味をどうして凡夫の知恵で推し量ることが可能でしょうか。
智慧の中味が知りたければ試して下さい。
お題目を口に心に唱え続けるならば、必ずやその答えが見い出せるでしょう。
富木常忍
大聖人の最有力信徒。後、出家し日常と名乗る。下総国守護千葉氏の有力家臣にして下総八幡(千葉県市川市)に居住。早くより大聖人に師事しご遊学の資金援助をしたとも伝えられる。教義に深く通じ、『観心本尊抄』等、重要御書を数多く与えられている。今日、大聖人の御書が伝えられているのは、富木氏の功績によるところが大きい。本書は富木氏が日常の信仰生活のあり方を具体的に問うたことに対する返書である。この一節は我々の修行の根本はお題目を持つことに集約され、さらにその功徳が端的に述べられている。